公開自殺ショー

 テレビ史上、最大級の放送事故だった。1974年7月、米国フロリダ州にあるABC系列の地方TV局「チャンネル40」では、ニュース番組を生放送していた。午前9時半からの「サンコースト・ダイジェスト」、担当していたのはクリスティーン・チュバック、29歳の女性アナウンサーだった。

この番組では、冒頭に国内ニュースを扱い、その後で猟奇的な犯罪や事故を特集する枠を用意していた。視聴率のとれない同局にとっては、この枠を売りにしていた。ところがこの日、放送予定だったレストラン発砲事件のニュース映像が流れなかった。スタッフは慌てたが、チュバックは笑顔を返し、カメラに向かってアドリブで話し始めた。

「チャンネル40にはポリシーがあります。それは視聴者の方々に、最新の…」と台本を離すと、彼女は微笑みながらカメラを見据えてこう続けた。「血液と内臓を、ありのままの色彩でお届けするというポリシーです。」そして彼女は机の下に右手を伸ばし、「本邦初公開となりますのは…」と隠していた38口径のリボルバーを取り出し、「自殺です!」と言い放った。

その刹那、彼女は右耳の後ろに銃口を押し当て、引き金を引いた。大きな銃声が響き渡り、投げ出されるようにして机の上に突っ伏した彼女は、そのままずるずると滑り、床へと落ちた。引きつったように痙攣し、鼻と口からも激しく出血していた。サラソタ記念病院へと運ばれたが、14時間後に死亡。生放送は中断され、映画番組で対処した。

この公開自殺は綿密に計画されていた。彼女は事件の3週間前に自殺問題を扱うことをディレクターに進言し、警察関係者を取材。その際に「こめかみよりも後頭部を撃つのが効率的」との言質を引き出していた。また、友人宛に託した遺書が発見され、「今朝、アナウンサーのクリスティーヌ・チュバックが生放送中に拳銃自殺を図りました。彼女はサラソタ記念病院へと運ばれ、意識不明の重体です」という当日の自殺を記すニュース原稿のようなシナリオも見つかっている。視聴者は1万人程度、しかもビデオ普及以前の事件だったのが幸いし、彼女の最期の映像は、警察が押収したマスターと遺族に渡されたコピーの2本だけだという。


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