現在の東京都台東区と荒川区にまたがって存在するドヤ街（通称：山谷）で、1980年代に発生した暴力団と日雇い労働者との間の騒乱を描いたドキュメンタリー映画『山谷─やられたらやりかえせ』を制作した監督2名が暴力団の組員によって相次いで暗殺された事件がある。
『山谷─やられたらやりかえせ』は佐藤満夫と山岡強一が共同監督で制作し、1985年に発表された日本のドキュメンタリー映画である。日雇い労働者達の過酷な労働と生活で知られる東京都の下町・山谷を舞台にしたドキュメンタリー作品で、彼らの生活の実態や闘争を描いている。また、釜ヶ崎など他地域のドヤ街の生活も描かれており、労働者（労務者）を描いた作品としては他に類を見ないリアルな作品となっている。1984年、全共闘の闘士であり山谷の闘争にも携わっていた佐藤満夫によりシナリオ案が練られ、撮影が開始された。
しかし労働者たちの生活に暴力団が介在していることを描いたことから地元のヤクザに狙われるようになり、その結果映画がクランクインしてまだ1ヶ月もたたない1984年12月22日、佐藤は暴力団・日本国粋会（後の六代目山口組國粹会。日本国粋会は暴力団であり、右翼団体でもあった）系金町一家西戸組の組員により刺殺された。
撮影は中断を余儀なくされるが、佐藤が遺したフィルムを元に有志により制作上映委員会が発足した。委員会により映画制作は、実際に山谷の労働者で全国日雇労働組合協議会の創設メンバー山岡強一に託され、翌1985年より制作が再開された。佐藤の腹案にあった釜ヶ崎に加えて笹島（名古屋市中村区）、寿町（横浜）、筑豊など他地域での撮影も行われ、同年11月ごろには完成し12月には初上映が行われた。
しかし明けて1986年1月13日、今度は山岡が暴力団日本国粋会系金町一家金竜組の組員に、新宿の路上で射殺された。制作過程において2人の犠牲者を出したこの作品は未だにビデオソフト化されていない。しかし現在も有志の手によって年に数度、都内を中心に全国各地で自主上映会が行われている。
ちなみに映画の冒頭は、襲われた直後の佐藤が、瀕死状態で山谷の路上に倒れているシーンから始まるという。
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